1 思考の道具としてのタイプライター
この章には何が書かれているのか?
タイプライターという機械
「僕たちの筆記具」は、僕たちの思想に影響を与える by ニーチェ
ニーチェも1881年にタイプライターを購入している 時代的背景
18世紀半ばから19世紀の産業革命
メディアとテクノロジーの変化
新聞・電信・電話
19世紀〜20世紀
映画・レコードなど複製芸術の時代
巨大な国家(ナショナリズム)の勃興
それに抗する形での社会運動
テクノロジーがもたらした民衆化・大衆化
これを考えると、ニーチェはかなりはやいタイミングでタイプライターを導入している
新しいもの好きだったのかもしれない
泡沫.iconニーチェに親しみを覚えました
登場したときには、神聖な「書く」という行為を冒涜する機械だという批判もあった
記され、それゆえ眼差しに対して自らを示す言葉は書かれた言葉、すなわち書である」
記された言葉は死んでいる
rashita.icon機械主導の言葉の選択
たとえばワープロの登場で、自分が書けない漢字が使えるようになっただけでなく変換の候補として示されるようになった
最近では入力の予測によって、自分が言葉を思いつく前に言葉が提示されている
音声入力では、自分が使わない漢字変換が行われる
タイプライターは書くことを手(すなわち言葉)から奪い取るとまで主張した
ニーチェにとっての超人はテクノロジーを愛するイメージだが、ハイデガーが解釈した超人のイメージはテクノロジーによって人間を支配するものであった ニーチェは1844年- 1900年、ハイデガーは1889年 - 1976年なので、ハイデガーはニーチェの研究及び解釈を行ったのだろう。
巨大組織とタイプライター(このあたりはタイプライターのネガティブな側面がまず検討されている)
巨大官僚組織の効率的運営にタイプライターは不可欠な道具
rashita.icon巨大官僚組織が勃興してきたのはいつごろか(巨大な国家の勃興と重なるか)
19世紀末からオフィスの有り様が変化した
事務作業の効率化のためにタイプライターが導入され、それを専用に扱う事務職と管理職が分離した
それまでの事務作業をしながらも仕事の全体に触れ、少しずつ管理職の技能を身につけるというルートが消えた
分業・専門化の徹底
管理職と事務職が固定化され、後者に女性が採用されるようになった
rashita.iconかつてのコンピュータは女性の仕事だった
日本語ワードプロセッサの歴史を確認する
ハイデガーは秘書にタイプライターで清書させており、その秘書がタイピング中に過労でなくなったというエピソードがある
権力勾配、管理職と事務職のわかりやすい構図
イエーツ、エリオット、ジョイズ、ヘミングウェイなどを援助・協力
自身『キャントウズ』
人間を解放する機械のイメージを持っていた
1880年代 第二次産業革命 by リチャード・マーク
工場やオフィスに合理化の波
それ以外の領域でも
製版の技術
本にページ(ノンブル)が打たれて、正確な引用が可能になった
昔の古典が印刷され、流通した
アングロ・サクソンの「伝統」は、構築された伝統システムと言える
ブックマシーンとして再構築された古典群(アンソロジー)
最新の製版技術によって可能になったブックマシーンとしてのOED これらが人々の読み書きを助けた(「伝統」への参加を容易くした。というよりもその参加が「伝統」を構築、維持した)
パウンドの視覚的効果を確かめるうえでもタイプライターは活躍した
rashita.icon韻律詩の場合は音の響きが重要で、つまりは発声(脳内の発声も含む)が詩を点検する視座となる 一方で、自由詩の場合は音の響きは詩を点検する助けにはならない 「視覚的効果」は、書かれた詩を目にしたときに点検できるものであり、活字と同じように整った文字で詩を点検できるタイプライターは、それ以前の「書く道具」とは大きく違っている点に注目したい。
多量のデータの蓄積
索引作成
検索
といったデータベース・マネジメントが背景にある
詩の見た目へのこだわりは、現代のDTPと通じるものがある。 機械としての詩のイメージ
(機械としての詩では)機械装置、そして単なる止まっている構造体を区別しなくてはなりません。機械の止まっている構造体は全体の構造の単なる一部に過ぎず、何の原理も必要としていません。単に形式とテイストによって統合されているだけです。
稼働部分と、稼働部分を軌道に載せておくのに必要な部品だけに、私は興味があるのです。
パウンドにとっての理想的な詩とは、機械の稼働部分とそれを軌道に乗せておくのに必要な部分だけから構成されているもの
詩を聞くだけではなくて見ることのできる群衆
詩の文章の視覚的な配列を正確に複製できる印刷機
印刷された状態を確かめながら詩を書くことができる装置のある工房のような場所での仕事の方法
パウンドの文章を書く方法
まず全体の構造を決め、部分の構成にとりかかる。
ここでは部分はまるで機械のギアやシャフトのようい扱われている
この方法はアメリカにおける文章読本の方法と同じ
分かりやすい簡潔な文章で、言いたいことを正確に伝える
複雑なことは細かく分解して、部分部分の記述を積み重ねることで説明する
この共通点に著者は注目している
モダニストの表出しようとする現代社会に生きる複雑で矛盾した感情と、物事を分かりやすく伝達しようとする意志とは別種のものである。ところが、文章作法上には類似点があることは興味深い。部分・部分を体系的に組み立て、全体の構造を探っていく思考法は書き手の感情はどうであれ、タイプライター的と言えよう
ここで、タイプライター的思考法が簡単スケッチされる
rashita.icon「書き手の感情はどうであれ」というのは、モダニスト的観点からの表現なのか、それとも事務・効率的な情報の伝達なのは問わずに、というくらいの意味合いで了解すればよいと思われる。
書く作業に機械を導入するかどうかについての考え
タイプライターに代表される機械を導入すると、たしかに効率はあがるが、効率だけでなく思考作業の品質も問題になる
ニーチェは機械を肯定し、ハイデガーは思考と手書きはセットであると考え、パウンドはスピードと正確さを評価した
rashita.icon書き手によって異なる反応
タイプライター的思考とは、タイプライターをペンの代わりに使う思考のことではない
19世紀的な効率と生産性を可能にするシステムによる思考
タイプライター的思考のための場所
部分をつなぎ、全体を考え、資料はファイルに整理され、巨大な辞書が備えられている環境
第一稿はタイプでつくり、自分でタイプしながら推敲する
第一稿は手で書いて、自分でタイプしながら推敲する
第一稿は手で書いて、タイピストに渡して清書してもらう(大企業方式)
書くことの欲望から生じる第一稿は手書き
それをあとからタイプで打ち直すが、時間がないときはタイピストに頼むことも
そうした依頼はバルトにとって気詰まりだったので、自分でタイプに習熟し依頼しなくても大丈夫なようにしようとした
彼曰く、そのようにしてタイピングに習熟すると、手書きとは異なったエクリチュールが生まれてくると。 第一稿は手で書いて、清書も手書きする
なぜそんなことをするのか?
タイプライター的思考の限界
全体の統一性を考えながら、ばらばらな部分を寄せ集め、つないでいくタイプライター的思考には限界もある
人間の思考はもっと複雑だから
次の章で、その限界が確認される
この章で疑問に思ったこと・考えたこと
rashita.icon完全に重なるとは限りませんが、ある部分で重なるとは思います。
機械と分業化とシステムとしての資本主義経済の関係を考察してみたい
rashita.iconこれはかなり大きな問いというか視点ですね。問いの形に直すなら「資本主義経済において、機械化と分業化はどのような役割を持つか」になるでしょうか。
泡沫.iconおお、問いの形になると何を明らかにすると良いのかが見えてきて良いですね。この問いを持ちつつ考察を深めていきます。
この本が発表された1991年にタイプライターの話をするのはどうしてだろう。
rashita.iconタイプライターというものが、「書くための道具」として機械化された最初の事例だからでしょう。エポックメイキングというか。
この章の読書メモページ
この章のまとめ・レジュメ